研究概要 |
目的:本研究の目的は,高齢者において,1)閉眼時の静的立位バランスへの加齢の影響と,2)歩行開始を想定した前方へのステップ動作時の姿勢制御への加齢の影響を検討することである. 対象:60〜80歳代の健常高齢者247名(男性75名,女性172名)を対象とした.対照群は健常若年者44名(男性15名,女性29名)とした. 方法:静的立位バランス検査は,フォースプレート上で開眼および閉眼での静止立位を30秒間保持させ,足圧中心点動揺距離を計測した.平成10年度の研究に加えて,ロンベルグ率(閉眼時動揺/開眼時動揺)の加齢変化を調べた.動的立位バランス検査は,20cm開脚立位から前方20cmの地点へ片足を踏み出し,その足に荷重し,元に戻るステップ動作を行わせ,足圧中心点移動距離を前後・側方別に計測した. 結果:静的立位バランスでは,若年者に比べ高齢者では男女とも前後・側方の身体動揺の増大を認めた.閉眼時の立位平衡を検討するためのロンベルグ率は,若年者と比べ高齢男性で大きく,高齢女性では有意差はみられなかった.ステップ時の足圧中心点移動は,高齢者では若年者に比べ,男女とも側方移動距離の減少がみられた.前後距離では有意差はなかった.高齢者を60歳,70歳,80歳代の3群に分け,年代間での変化をみると,静的立位では年齢が高くなるに伴って身体動揺が有意に増大し,その変化は70-80歳代間で著明であり,また,男性の方が加齢に伴う身体動揺増加の程度は著しい傾向がみられた.ステップ検査では,60-70歳代間ではあまり変化がなく,70-80歳代間で足圧中心点側方移動距離の短縮がみられ,男性でより顕著であった. 結語:加齢に伴う身体動揺の増大を報告した先行研究同様,本研究でも高齢者に有意な増大を認めた.その変化は80歳以上で著明であった.ロンベルグ率は若年者に比べ,高齢男性で増加していた.このことは,姿勢制御における視覚依存度が高齢男性で増大していると考えられる.ステップでの高齢者の足圧中心点側方移動距離の短縮は,前方へ踏み出して戻る動作において,前後の意図的な身体重心移動は円滑に行われるが,それに付随的な側方重心移動が加齢に伴って選択的に低下する可能性を示唆している.
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