平成9年度に行った実験として、まずepitenonやparatenonを含む腱周囲の膜様組織を腱周囲組織と定義し、実験動物において損傷腱修復モデルを作製して、腱周囲組織を切除した群と修復した群とを比較した。切除群では腱周囲から腱内部にわたって高度の線維組織の増生を認めたが、修復群では増生は軽度であった。したがって腱周囲組織は、周囲からの瘢痕組織の侵入を阻止する障壁としての機能を有すると考えられた。 平成10年度は、瘢痕組織形成の機序について、免疫組織学的評価を加えるとともに、腱周囲組織の培養を行っている。免疫組織学的検討では、瘢痕組織内においてTGFβ-1は術後1週で高い染色性を示す細胞が観察されたが、術後2週以降はその数は著しく減少した。FGFは術後1週で高い染色性を示し、その後も継続して観察された。現在はcollagenやPDGFなどの免疫組織学的染色を継続して行っている。 また、腱周囲組織の瘢痕組織抑制における有用性が確認できたため、腱周囲組織の細胞培養を行っている。実験動物の腱周囲組織を採取し、collagenase処理を行った後、初代細胞培養した。培養開始後3週で細胞の集簇が認められ、4週で十分な量に達したため、trypsin処理を行い継代した。現在は培養細胞を継代中である。 細胞培養に成功すれば、人工腱鞘を作製し、これを実験動物に再移植する。培養細胞をコラーゲン膜上に播種し、これを修復腱を被覆するように縫着して、瘢痕組織形成の抑制効果を観察する予定である。 この方法が確立されれば、瘢痕組織形成の抑制が可能となる。また、腱周囲組織を培養によって得るため、採取部位の犠牲は非常に少なく、かつ欠損部位が多数でもすべてが再建できる。すなわち、多くの臨床応用が予想され、治療上の必要性も非常に強いと考えている。
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