(目的)腰部神経根症症例では腰痛のみならず下肢の痛み、しびれ、異常感覚や感覚麻痺症状が出現する事が多い。これらの異常発生のメカニズムを解明するために急性神経根症動物モデルを作成しそれに伴う脊髄細胞の機能的変化を電気生理学的に記録し検討した。(方法)ネンブタール麻酔下にラットを定位脳固定装置に設置した後、腰髄膨大部にある広域作動性ニューロンの単一ユニットポテンシャルを同定しそのニューロンの外的刺激に対する反応を記録した。神経圧迫に伴う脊髄細胞の機能的変化は記録中、坐骨神経を動脈クリップで圧迫し経時的なニューロンの外的刺激に対する反応性の変化を記録して行った。(結果)広域作動性ニューロンは坐骨神経を圧迫するとその直後より数分間持続する安静時放電の増加をみた。圧迫後10分以上経過すると触覚、圧痛覚刺激などの外的刺激に対する細胞の反応はいずれも低下したがとりわけ触覚刺激に対する反応が低下した。逆に強く皮膚を圧迫したときの変化は触覚刺激に比して小さいものであった。圧迫するため把持していた動脈クリップを除去すると再び数分間持続する安静時放電の増加をみた。圧迫解除後の外的刺激に対する脊髄後角細胞の反応の回復は皮膚圧迫刺激に対する反応が比較的回復しやすいのに対して、触覚刺激によるものは回復が乏しかった。(考察)神経圧迫では小径線維に比して大径線維がより障害を受けやすいと言われている。今回の結果は神経根症のような神経圧迫状態においても比較的大径線維によって伝達されると考えられている触覚がより障害を受けやすくまた同時に回復もしにくいことを示唆した。逆に比較的小径線維によって伝達されているとされる痛覚は神経圧迫による変化を受けにく回復もしにくいことを示唆した。また、神経圧迫や解除時にみられた安静時自発放電は、しびれや自発痛などの存在を示すと考えられた。
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