内側型変形性膝関節症滑膜の神経分布様式とneuropeptideの局在の解析では、内側滑膜に多くの局在を示し、特にsubstance Pは自由神経終末および新生血管を含む血管周囲の神経網の神経軸索にsubstance Pの集積を認めた。滑膜組織浸潤細胞の免疫組織化学的同定では、内側滑膜の表層下組織ではCD4陽性細胞が最も多く、ついでHLA-DR陽性細胞の発現頻度が高く、表層細胞層ではCD68陽性滑膜細胞を高頻度に認めた。また滑膜細胞の捕捉された変性軟骨磨耗片数が内側と外側滑膜との比較で、内側滑膜で有意な高値を示した。末梢血中のT細胞のsubstance Pに対する応答では、T細胞はsubstance P刺激により活性化しIL-2を産生し、細胞増殖能の亢進を認めた。 neuropeptideは中枢神経系あるいは末梢神経系の神経線維から遊離されることが知られている。関節滑膜に分枝する自由神経終末でも侵害刺激により脊髄後角で産生されたneuropeptideは末梢神経に軸索輸送され、自由神経終末から周囲組織に遊離すると考えられる。したがって、変形性膝関節症滑膜炎は軟骨磨耗片による単なる二次的滑膜炎症ではなく、血管周囲神経網に集積したsubstance Pが血管内皮細胞に作用し、血液細胞成分が血管外への漏出され、神経終末から表層下組織に遊離されたsubstance Pの直接作用によりCD4陽性T細胞が増殖し、滑膜炎症きたす神経原性炎症とT cell-macrophage interactionによる免疫応答とが変形性膝関節症滑膜病変の成因に深く関わると分析した。 以上より変形性膝関節症の滑膜炎症の沈静化には滑膜組織への圧刺激などの物理的刺激を減少させることとsubstance Pに拮抗する薬剤あるいは神経生理学的に関節内の恒常性を維持させる薬剤の開発が必要であると考えられた。
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