研究概要 |
脊椎脊髄に対する手術を全身麻酔下に行う際に運動路を監視下においた脊髄機能モニタリングを行うことが普及し始めている。しかしながら,最も運動関連神経組織の機能を反映する大脳あるいは脊髄刺激によって末梢筋に誘発される複合筋活動電位,すなわちCMAP(compound muscle action potential)を臨床の場において脊髄機能の指標として用いるには解決しておかなければならない様々な問題が残されている。それらは,(1)麻酔の抑制影響の克服,(2)CMAPの過敏性に関する問題,すなわち電位変化と運動機能障害残存の関連,(3)CMAPの過敏性発現の機序の解明等である。今回の研究によって麻酔の抑制に関しては2発以上5発の連発刺激を刺激間隔1〜2msec.で用いることにより解決されること,さらにはCMAPの消失は直ちに遺残する運動路の障害を意味しないことが明らかとなった。言い換えれば,CMAPは脊髄圧迫に対して鋭敏に反応して振幅を減じるが,その時点で麻酔から覚醒させたネコは運動障害を残さず,さらに圧迫を続けて索路伝導性の電位の振幅の低下が遺残する運動機能障害と関連する結果が示された。すなわち,脊髄刺激・記録の脊髄誘発電位SCEP(spinal cord evoked potential),大脳刺激・脊髄記録の運動関連電位MEP(motor evoked potential)などの振幅の低下が50%を越えるまで圧迫を維持した場合には高率に運動麻痺が遺残し固定化されることが観察された。従ってCMAPは脊髄に対する圧迫障害の鋭敏な指標となるが,他の伝導性電位と同時に用いるべきであると結論した。また,虚血性障害に対しては電位消失後約20分で障害が固定することも確認できた。CMAPの過敏性に関する実験的研究では,細胞内電位を記録しつつ脊髄に圧迫を加えることが極めて困難であり,今後さらに研究を続ける予定である。
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