急性脊髄不全損傷における前角細胞への神経栄養因子の関与を調べるために下記2つの実験を行った。 実験1-ウィスタ系ラットを用いて、第6頚髄レベル硬膜上に20g重錘を5分間置くことにより急性脊髄不全損傷モデルを作製し、非損傷群(n=5)、損傷群(損傷後3日、7日、14日、28日)(n=20)の頚髄の凍結切片にNissl染色とp-75免疫染色を行い、染色された前角細胞数を算定した。【結果】前角細胞数は損傷後3日目まで大きく減少し、14日目まで漸減した。p-75陽性細胞は、非損傷群では存在せず、損傷後3日目に存在し、7日目に最高値に達した。14日目、28日目ではp-75陽性細胞はほとんど存在しなかった。 実験2-同様の急性脊髄不全損傷モデルを用いて、脊髄損傷直後に脊髄クモ腹下腔にグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)(5ug/0.1ml)投与(n=10)、リン酸緩衝液(PBS)(0.1ml)投与(n=10)し、損傷後2日目、7日目にRivlinらのinclined-plane法による運動機能評価を行い、両損傷群とも損傷7日目に経心臓的環流固定を行い頚髄の凍結切片を作製し、コリンアセチル基転位酵素(ChAT)の蛍光免疫染色を行い、分析した。また非損傷群(n=10)にも蛍光免疫染色を行った。【結果】運動機能評価:GDNF投与群、PBS投与群ともに損傷前に82度まで斜面台上で体幹保持可能であったが、損傷2日目にそれぞれ55度、52度、損傷7日目に68度、63度となり、両損傷群間では損傷7日目に有意差を認めた。免疫組織学的検索:ChAT蛍光値は、非損傷群121.4GDNF投与群96.4、PBS投与群81.6であった。PBS投与群と比べGDNF投与群では蛍光値の低下が有意に抑制されていた。 以上より実験1ではp-75が前角細胞の遅発性神経細胞死に関与している可能性が考えられた。実験2ではGDNFが損傷された前角細胞に栄養効果を持つことが示唆された。
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