研究概要 |
1.臨床研究 腹部大動脈瘤手術患者7名では、血中エンドセリンー1(ET-1)濃度は術後上昇し、術中出血量と手術前後の血中ET-1濃度の変動との間に有意な正の相関(r=0.678)が認められた。また、腹部大動脈瘤破裂患者2名のうち生存例では血中ET-1濃度は手術直後に一過性に上昇したが、その後低下した。死亡例ではET-1濃度は高値が持続し多臓器不全を併発した。これらより血中ET-1濃度は、外科侵襲の程度や血管損傷の大きさを反映し、ET-1の高値遷延化は多臓器不全を招く可能性がある。 2.エンドトキシンショックモデル犬による研究 雑種成犬にLPS(250ng/kg/min 2hr)を投与したところ、低血圧、代謝性アシドーシス、低酸素血症、腎機能障害が生じ、血中ET-1濃度が上昇してMAP,MPAP,PCWP,CVPと正の相関を示した。非選択的ETA/ETB受容体拮抗薬であるTAK-044(5mg/kg)を前投与することにより、代謝性アシドーシス、低酸素血症、腎機能障害を阻止できた。ET-1は、エンドトキシンショック時の全身血管拡張に対して血管収縮により血圧を維持する役割を果たしているが、腎や肺循環には対しては臓器血流減少を引き起こすためTAK-044は急性腎不全の治療薬として有効である。またLPS(3mg/kg/hr1hr)投与後、選択的誘導型NO合成酵素阻害薬であるL-カナヴァニンを10mg/kg/hrの速度で5hr持続投与したところ、NO阻害により血中ET-1濃度がさらに上昇し、ET-1は酸素運搬量の低下や乳酸アシドーシスと関係していた。これらのことより、NO阻害によるET-1の著明な増加は臓器血流を減少させ、臓器不全を発症させる可能性があることが示唆された。
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