低酸素吸入時に肺血管が収縮し、血管抵抗が増す反応は、hypoxic pulmonary vasoconstriction(以下HPV)としてよく知られている。HPVは、低換気状態に陥った肺胞領域から正常換気領域へ血流をシフトさせ、低酸素血症の発現を防ぐ働きがあり、肺動脈の酸素分圧の低下よりも吸入気の酸素分圧の低下によって、より強い収縮反応が生じるとされている。しかしながら、体血管においては血管拡張性に作用する低酸素が、肺血管において逆に作用をすることについて、その機序は未解明である。われわれは、本研究において、HPVの本体を、肺気管支神経上皮複合体が低酸素吸入を感知し、興奮し、血管収縮性物質を含む(おそらくは5-HT)細胞内顆粒を放出し、肺血管を収縮させることと考え、ラットの分離肺潅流モデルを用いて、本反応に及ぼす、吸入麻酔薬、セボフルレンとイソフルレンの影響を検索した。また、HPV反応が、低体温時にいかなる影響を受けるかを検索するとともに、近年、重症呼吸不全時の治療において注目されている、部分液体換気法のHPV反応に及ぼす影響を検索した。 吸入麻酔薬、セボフルレンおよびイソフルレンはdose dependentにHPVを抑制した。4%セボフルレン、3%イソフルレンは完全にHPV反応を抑制したが、吸入中止によって速やかに反応性は回復した。また、HPV反応は低体温にて抑制され、30度以下では認められず、33度以上で反応性が回復することが認められた。パーフルブロンによる部分液体換気はHPV反応には影響しなかった。
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