上肢の慢性疼痛患者に対し、硬膜外脊髄通電療法および硬膜外ブロック療法を施行し、visual analogue scale(VAS)による除痛効果の判定と、非侵襲摘近赤外線分光モニターによる局所筋組織酸素動態測定を行い、自覚症状と末梢循環の変化の面から、2つの治療法の差異を検討した。対象疾患は、帯状疱疹後神経痛、外傷性頚部症候群等15名であった。透視下に、疼痛部位と一致する脊髄分節の硬膜外腔背面に、多目的硬膜外カテーテル電極を挿入した。疼痛部位の筋腹に近赤外線分析装置のプローペを装着し、室温25℃で10分安静の後、45分間の硬膜外脊髄通電(2〜5V)中、刺激終了後2時間まで、oxy-Hb、deoxy-Hb、toal Hb、Cytaa_3の濃度変化を測定した。日を改めて、同じ多目的硬膜外カテーテルから、1%リドカイン6mlを注入して硬膜外ブロックを行い、2時間安静臥床させ、同様の測定を行った。VASは、治療開始前のコントロール値に両群間の差はなく、それぞれの治療により有意に低下したが、両群間の差は認められなかった。oxy-Hb、toal Hbは、硬膜外脊髄通電群において有意な増加が認められ、硬膜外ブロック群に比較しても有意差が認められた。以上から、硬膜外脊髄通電では、硬膜外ブロックに比べて末梢循環が有意に増加したが、鎮痛効果の指標であるVASには両者の差は認められず、末梢循環の増加と除痛とは必ずしも一致しないと考えられた。また、帯状疱疹後神経痛、反射性交感神経萎縮症、腰部脊柱管狭窄症、腕神経叢引き抜き損傷等の疾患に対し、サーモゲラフィーで皮膚温を測定しながら両者の治療法を施行したところ、疾患によって、それぞれの治療の有効率には違いがあり、それは、患部の皮膚温の低下や、治療による皮膚温の上昇には関連がなかった。以上から、末梢循環に与える影響の違いのみで、硬膜外脊髄通電と硬膜外ブロックの治療の差異を検討することはできないと考えられた。
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