研究概要 |
術中・麻酔中の体温低下は我々麻酔科医が常日頃遭遇することである。その中でも麻酔導入時の中枢温の低下は特に著しい。その原因として中枢から末梢への熱の再分布が大きく影響している。さらに、手術中も熱産生、熱喪失のバランスが崩れることにより、中枢温は低下することが多い。その結果、手術後のシバリング(ふるえ)、虚血性心電図変化などの合併症が生じ得る。 本研究では当初、降圧薬が中枢温・末梢温に及ぼす影響を検討したが、有意な結果が得られなかった。そこで、日頃頻用されている前投薬のミダゾラムが周術期の体温変化に及ぼす影響について、若年者と高齢者とを比較検討した。 【研究背景】 高齢者は若年者に比べ、vasoconstrictionおよびshivering閾値の低下等の体温調節機構の障害がみられる。我々は前投薬として用いられるミダゾラムが若年者において著明な中枢温低下を生じることを既に報告した^<1,2>。今回、前投薬のミダゾラムが周術期の体温変化に及ぼす影響について、若年者と高齢者とを比較検討した。 【方法】 ASAI-IIの3時間以上の全身麻酔を受ける患者について、若年者(20-50歳)と高齢者(65-80歳)各々の15名ずつを対象とした。前投薬として全身麻酔導入30分前にミダゾラム0.05mg/kgを筋注し、投与直前、30分後、および術中(10分ごと)の鼓膜温(Ttym)および前腕-示指温度較差(Grad_<a-f>)(末梢血管収縮の指標)を測定した。 【結果】 高齢者は若年者に比べ、前投薬投与30分後のTtymの低下が有意に大きく(P<0.01)(ΔTtym=-0.4±0.1℃vs-0.1±0.1℃)、Grad_<a-f>の変化(ΔGrad_<a-f>)も有意に大きかった(P<0.05)。また、術中のTtymの低下も高齢者では有意に大きかった(P<0.01)。 【結論】 高齢者では通常使用量のミダゾラム(0.05mg/kg)の投与で、より著明な中枢温低下が生じることが判明した。周術期の体温低下は様々な合併症をもたらすので、高齢者では特に体温の厳密なモニタリングおよび管理が必要と考えられる。 【参考文献】1.Br J Anaesth 1997;78(4),396-9.2.Anesthesiology 1995;83(5):961-7.
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