研究概要 |
基礎研究 リドカインは炎症性細胞の作用を抑制することにより、エンドトキシンによる急性肺障害を軽減する。その作用機序としてのnitric oxide(NO)の発生にリドカインが関与しているかどうかを明らかにするためにマクロファージ株化細胞を用いてリドカインがNO産生に与える影響を検討した。リドカインは濃度依存性にNOの産生を抑制したが誘導型NO合成酵素のmRNAの発現は変化しなかった。次にエンドトキシン・敗血症による動物多臓器不全モデル(ウサギ、ハムスター、ラット)を用いて血液凝固系(DIC)及び横隔膜機能について検討した。リドカイン(2mg/kg/hr)はFDPの高値や血小板の減少を軽減しDICに対する有効性を示した。横隔膜機能は盲腸結紮穿孔術によって作成した敗血症動物から横隔膜条片を切りだしクレブス液槽内で電気刺激を与え等尺性収縮による発生張力を解析することにより評価した。敗血症群で見られたdp/dt maxの低下やトウィッチ刺激による発生張力の低下ならびにテタヌス刺激による筋肉疲労をリドカインは軽減させ敗血症に伴う横隔膜機能不全に対する有効性を示した。リドカインの有効性の機序を検討する目的でエンドトキシン投与後の肺におけるiNOS,nitrotyrosineのタンパク発現を経時的に免疫組織学的に評価した。肺胞・気道上皮にiNOSやnitrotyrosineの発現が見られたがリドカインはこれらの発現を軽減した。 臨床研究 多臓器不全の発症危険度が高いと考えられる患者(敗血症1例、急性膵炎1例、高度侵襲手術後3例)を対象にリドカインを臨床使用しその予防・軽減効果の検討を行った。急性膵炎1例ではリドカインの投与に伴いPaO2/FIO2 ratioで表わされる酸素化能が回復した。高度侵襲手術3例においては手術侵襲の大きさにもかかわらず臓器不全は起こらなかった。
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