低酵素による赤血球変形能の低下が低酵素性肺血管収縮(HPV)発現のメカニズムに関与するのか明らかにするために、まず、HPVの強さにおける赤血球の寄与の程度を検討した.家兎の摘出灌流肺で実験を行った。灌流肺を小動物用レスピレーターにより換気し、定常流の潅流ポンプにより定流量で再灌流した。灌流量は電磁血流計で持続的に測定した。灌流液に自家血液とphysiological salt solutionの混合液を用いた。換気ガスの酵素濃度を21%から3%に低下させた時の肺動脈圧の上昇値をHPVの強さの指標とした。肺動脈圧値はポリグラフで測定、記録した。ヘマトクリットが0、10、20%の灌流液を作成し、さらにそれぞれについて、血小板及び白血球除去フィルターを用いて血小板あるいは白血病除去灌流液も作成した。作成した種々の灌流液においてHPVを観察した。ヘマトクリットが0%の潅流液ではHPVが発現しなかった。ヘマトクリットが10%の灌流液ではHPVの強さは8.7±1.4(n=6)mmHgであった。ヘマトクリットが20%の灌流液ではさらにHPVが増大した。血小板あるいは白血球除去灌流液については、ヘマトクリットが同じであれば除去しないものとHPVの強さは同じであった。HPVの強さにおいて赤血球が大いに関与し、血小板あるいは白血球はあまり関与しないことが示唆された。 今後は、灌流液に種々の濃度のホスホエノールビルビン酸(PEP)を加えて、PEPのHPVに対する用量反応曲線を求める。また、PEP処置前後での灌流液中の赤血球のATP(化学発光法)、2、3-DPG(酵素UV法)を定量し、赤血球のエネルギー代謝の変化を評価し、さらに赤血球変形能の変化をフィルター法で測定する予定である。また、灌流肺に電気回路モデルを適用して、HPVを数量的に評価することも検討している。
|