ランゲンドルフ法にて採取したラットの単一心筋細胞を使用し、ATP感受性Kチャネル(K_<ATP>チャネル)に及ぼす麻酔薬の影響をパッチクランプ法により検討した。K_<ATP>チャネルは心筋虚血時に出現するチャネルであるため、DNP(ミトコンドリアのATP合成阻害剤)を加えた溶液、あるいはATP濃度の低い溶液で標本を灌流した。Cell-attached patch法とinside-out patch法にて静脈麻酔薬であるthiamylalの影響を検討した結果、thiamylalは両方において濃度依存性にK_<ATP>チャネルを抑制することがわかった。このことよりthiamylalの抑制作用は、細胞内伝達物質によるものではなくチャネルへの直接作用であることが示唆された。またwash-out後K_<ATP>チャネル活性は元に戻ることによりthiamylalの影響は可逆的抑制であることがわかった。さらにアシドーシス下において出現するK_<ATP>チャネルにおいてもthiamylalは活性抑制作用を示した。同様の手技を用いてK_<ATP>チャネルに及ぼす他の静脈麻酔薬(propofol)、吸入麻酔薬(halothane、isoflurane、sevoflurane)の影響を検討した。今回検討した全ての吸入麻酔薬はthiamylalと同様K_<ATP>チャネル活性を抑制したが、propofolはK_<ATP>チャネル抑制効果を示さなかった。今回の研究での麻酔薬の濃度は、臨床麻酔における血漿濃度に十分還元できるものであり、以上の結果からthiamylal、halothane、isoflurane、sevoflraneはK_<ATP>チャネルのもつ心筋保護作用を抑制する可能性が示唆された。
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