研究概要 |
マウス及びラット脳海馬スライスを作成し以下の実験を行なった. 1. CA1領域におけるfield potentialに及ぼすエンフルランの影響 2%及び5%のエンフルラン溶液を20分間還流すると集合電位の大きさおよびEPSP slopeはほぼ濃度依存的に抑制された.麻酔薬をwashoutしていくと時間とともに回復し,2-30分でほぼ元のレベルに戻った.paired pulse facilitationの変化が一定でなかったため,この抑制がpresynaptic作用かpostsynaptic作用かは特定できなかった. 2. CA1領域における既成立の長期増強に及ぼすエンフルランの影響 0.3mA,100Hz,1secのテタヌス刺激を、10秒間隔で3回Schaffer側枝に与えることによって、CA1錐体細胞領域および樹状突起部のfield potentialにおいてLTPを成立させることができた。その後,2%及び5%のエンフルラン溶液を20分間還流すると集合電位の大きさおよびEPSP slopeはほぼ濃度依存的に抑制された.しかし,これにはかなり標本差が見られた.すなわち,2%のエンフルランにより,50%の抑制を来すものから,全く変化を受けないものまで観察された.5%では,30%程度から100%の抑制を受けるものまで観察された.washoutにより多くのスライスで元のレベルまで回復した.中に,元のレベル以上に増大するものが認められ(麻酔後増大と呼ぶ),マウスでの行動実験から得られた所見と一致した.長時間観察すると,不意に数倍のレベルまで自発的に増大を繰り返す場合があるが,この現象も行動実験での記憶促進現象を支持すると考えられた. 1Hzのパルス刺激を900回与えることにより同領域にLTDを成立させた。しかしこれはLTP程長期間成立せず、これを安定して得るための刺激条件を探すことが必要である。 3. エンフランが後の長期増強を生じさせることの証明 弱い高頻度刺激により,続く強い高頻度刺激による長期増強は抑制されるが,弱い高頻度刺激の期間にエンフルランを作用させると続く強い高頻度刺激により長期増強が生じることを証明した. 4. 長期増強の麻酔後増大現象を支持するもう一つの発見 初めに長期増強を起こさない程度の弱い高頻度刺激を上記実験と同様に与える.その後,エンフルランを作用させ,washoutし,回復した時点で,再び弱い高頻度刺激を加えると,エンフルラン作用前には生じなかった長期増強が生じた.このことも,記憶の行動学実験で得られた麻酔薬の記憶促進作用を支持するものである.
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