昨年度の研究において、正常雑種成犬で体外式肺補助(Extracorporeal Lung Assist;ECLA)下の4時間の肺内液体充填は生体肺に障害を起こすことなく安全に施行可能であることを示した。そこで、実際の急性肺傷害に対する効果を検討するために、動物での急性肺傷害モデルの作製および肺傷害モデルでの肺内液体充填を試みた。パラコート(メチルビオロゲン)10mg/kgを全身投与したイヌは投与後4日目から肺酸素化能が低下したが、10日目くらいから再び回復し、14日目の病理組織では、大部分はほぼ正常の肺胞構造を示した。15mg/kgを投与したイヌでは著明な肺出血を来し、衰弱して死亡するもの、一過性の全身衰弱がみられたが回復するもの、投与後も全く元気で肺機能低下も起こさなかったものなどパラコートへの感受性の個体差ががなり大きがった。20mg/kgを投与したイヌは衰弱し、肺出血をおこして死亡した。数頭にパラコート15mg/kgを静脈内投与した後、肺内液体充填を行なった。投与後6日目に実験を行なったイヌは全身衰弱が著しく、22時間の液体充填後に7時間の陽圧人工換気を行なったが肺は全く膨らまず、ECLAから離脱できなかった。一方、パラコートを投与して翌日実験を施行したイヌでは、肺機能の回復は良好で、排液4時間後にECLAから離脱できた。肺の肉眼的、組織学的検索では明らかな異常は認められなかった。このように、イヌ急性肺傷害モデルでの肺内液体充填法は、肺傷害の程度により全く異なった結果となった。今後、一定の肺傷害を作製した動物での評価が必要である。
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