本研究では、先ず、体外循環による肺補助(ECLA)下に両側肺を液体で完全に充填したときの生体に及ぼす影響、および液体充填後の肺機能の回復について検討した。正常雑種成犬を用いECLA下に肺内を4時間にわたって乳酸リンゲル液で完全に充填した。充填中はPaO2は著明に低下したが、液体排出後、通常の人工換気を開始するとPaO2は急激に上昇し、生体肺のガス交換能は保たれていた。胸部レントゲン写真上も排液後の肺の拡張はよく、静肺コンプライアンスにも変化はなかった。排液24時間後の肺水分量も液体充填を行なわなかったイヌと差はなく、肺間質や肺胞内への水分貯留などはほとんど起こらなかったと考えられる。また、全てのイヌがECLAを離脱して通常の人工換気へ移行し、排液後24時間以内に機械的人工換気を離脱できた。 次に、動物での急性肺傷害モデルの作製および肺傷害モデルでの肺内液体充填を試みた。イヌにパラコート(メチルビオロゲン)15mg/kgを全身投与したが、著明な肺出血を来して衰弱して死亡するものから全く元気で肺機能低下も起こさなかったものまで個体差が大きかった。10mg/kgでは一過性に肺酸素化能が低下したが徐々に回復し、20mg/kgを投与したイヌは衰弱し、肺出血をおこして死亡した。パラコート15mg/kg投与後6日目に実験を行なったイヌでは、22時間の液体充填後に7時間の陽圧人工換気を行なったが肺は全く膨らまず、ECLAから離脱できなかった。一方、パラコートを投与して翌日実験を施行したイヌでは、肺機能の回復は良好で、排液4時間後にECLAから離脱できた。 このように、急性肺傷害の初期には正常動物と同様に肺内液体充填が施行可能であると思われる。今後、肺傷害に対する肺内液体充填法の長期的な影響の評価が必要である。
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