研究概要 |
我々は、神経因性疼痛モデルを用い神経成長因子(NGF)に対する高親和性受容体(TrkA)の発現を免疫組織化学染色法で調べたが、坐骨神経結紮部と後根神経節(第5,6腰椎レベル)にTrkAを見いだせなかった。当該研究期間内にTrkAに対して親和性の高い抗体を手に入れることは困難と判断されたため、脊髄後角内の抑制性介在細胞のひとつであるγアミノ酪酸(GABA)含有細胞が座骨神経結紮部で減少することに着目し、同じ神経因性疼痛モデルを用いてNGFがGABA含有細胞に及ぼす効果について研究することとした。 方法:150〜280gのラットを用い、結紮群では、ペントバルビタールによる深麻酔下で右坐骨神経を露出し、4-0クロミック糸を用い、1-1.5mm間隔で4回ゆるく結紮した。NGF群は、結紮後、背部皮下にNGFを注入した浸透圧ポンプを埋め込み、神経結紮部に持続投与した。結紮後2週間で免疫組織学的染色を行った。深麻酔下で左心室から0.9%生理食塩水および4%パラホルムアルデヒドにて還流固定した後、脊髄を摘出した。脊髄のL3-5レベルで連続凍結切片を作成し、ヤギ血清で1時間前処理した。その後抗GABA抗体及び蛍光標識されたウサギIgGにて反応させた。再度PBSにて洗浄後、スライドガラスに貼付し封入した。蛍光顕微鏡にて、脊髄後角I-III層のGABA陽性細胞を測定した。統計:unpaired t-testにて行い、p<0.05を有意と判定した。(シャム群対結紮群:27.1^^+__-7.7vs13.9^^+__-9.7)(Mean^^+__-SD)さらにNGF群の結紮側は結紮群よりは細胞数が有意に多かった。(NGF群対結紮群:26.3^^+__-8.7vs13.9^^+__-9.7)しかし、NGF群の結紮側はシャム群と有意な差は見られなかった。非結紮側は両群ともシャム群と有意差は見られなかった。 結論:坐骨神経結紮により脊髄後角のGABA陽性細胞数が減少するが、NGFはその減少を防止した。すなわち、NGFは抑制性GABA介在ニューロンの減少を防止することによって、神経因性疼痛の発生を予防すると考えられる。
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