研究概要 |
敗血症時の発症する呼吸不全の原因として肺実質障害ばかりでなく呼吸筋の横隔膜疲労も大きく関与している.我々はその機序を検討するために平成9年度はラット腹膜炎敗血症モデルを作成して横隔膜摘出標本における収縮力を検討した. [実験1]腹膜炎作成後の横隔膜収縮力の変化を明らかにすることを目的として腹膜炎作成4,8,12,16時間後に横隔膜摘出標本を用いてtwitch tension(TT),force frequency relationship(FFR)を計測した.対照は単開腹したラットの横隔膜標本とした.その結果,腹膜炎作成4,8時間後(early septic stage)ではTT,FFRともに対照と有意差は認めなかったが,8,16時間後(late sepric stage)には有意にTT,FFRとも低下・抑制されていた.本実験の結果より敗血症のearly stageには横隔膜収縮力は影響されないが,late stageには有意に抑制されていることが明らかとなった. [実験2]実験1にて明らかとなった敗血症のlate stageにおける横隔膜収縮力の抑制がadenylcyclase system活性化により改善するかどうかを明らかとするために,同システムを活性化する薬剤を用いて検討した.腹膜炎作成16時間後のラット横隔膜摘出標本を用いてadenylcyclase systemを活性化する薬剤(isoproterenol,forskolin,aminohyline)の負荷前後のTT,FFRを測定した.これらの薬剤負荷により有意に負荷前よりTT,FFRともに増加していた.本実験の結果よりadenylcyclase system活性化は横隔膜収縮力を増加させており敗血症での呼吸筋疲労の治療薬としての有効性を示唆された. [実験3]敗血症時の横隔膜神経筋伝達の変化を検討するため筋弛緩薬(d-Tc).拮抗薬(anti-cholinesterase)の投与実験を施行した.late stageでは横隔膜の非脱分極性筋弛緩薬の作用を低下,同時に拮抗作用をも低下していた.本実験の結果から敗血症により横隔膜の神経筋伝達が促進されている可能性が示唆された.
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