研究概要 |
上腹部手術後や腹膜炎敗血症時に,急性呼吸不全を合併しやすいことは,臨床経験上よく知られている。その原因として肺炎や,成人呼吸窮迫症候群(ARDS)に代表される急性肺障害が推測され古くからよく研究されてきた。近年,呼吸筋疲労,特に横隔膜筋疲労が上腹部手術後や,腹膜炎敗血症時の急性呼吸不全の伸展に重要な役割を果たしていることが示唆されている。しかしながら,それらの基礎的研究はほとんどなされておらず,その原因,治療法についてはいまだ明らかにされていない。今回、我々は、盲腸結紮穿孔法 (CLP) により腹膜炎敗血症モデルを作成し、横隔膜収縮力ならびに横隔膜筋疲労に関し検討を加えた。実験1として、まずCLP後横隔膜収縮力の変化について経時的に検討した。CLP後、横隔膜収縮力は経時的に低下することを、まず明らかにした。そして、横隔膜収縮力低下はearly stage of sepsisに始まり、late stage of sepsisでさらに進行することを示した。敗血症の進展には、種々の活性酸素が関与しているとされている。我々は、腹膜炎敗血症時の横隔膜収縮力低下においても、活性酸素が関与しているのではないかと仮定した。そこで実験2として、superoxide dismutase (superoxide消去剤)、dimethyl sulfocide (hydroxyl radical消去剤)、catalase (過酸化水素消去剤)が腹膜炎敗血症時の横隔膜収縮力低下に及ぼす影響について検討した。活性酸素の脂質酸化物であるmalondialdehyde (MDA)は、敗血症の進行とともに上昇した。superoxide dismutase、dimethyl sulfoxide、catalase投与は横隔膜筋中のMDAの上昇ならびに横隔膜収縮力低下に拮抗した。一方、横隔膜筋中のsuperoxide dismutase活性は、CLD後上昇した。以上、今回の我々の検討から、腹膜炎敗血症時の横隔膜収縮力低下には、活性酸素の過剰産生が関与していることを明らかにした。
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