脊髄後角におけるNMDA受容体-NO-cGMP系を介する疼痛の伝達システムがいわゆる疼痛過敏状態において海馬におけるNMDA受容体-NO-cGMP系を介する記憶形成における長期増強現象と同様のメカニズムが脊髄後角細胞に働き、疼痛閾値に変化を与えるのではないかという仮設に基き、科学研究費の補助を受けた2年間の期間においてラット脊髄を用いてin vivoおよびin vitroにおいてNOおよびグルタミン酸の関係についての検討を行った。方法として、よりreal timeな情報を得るために電極を用いた同時測定を試みた。しかし、NO電極は良好な反応時間と感度が得られたのに対し、グルタミン酸電極は結果的にin vivoにおいては十分な感度が得られなかった。そのため、まずNOについてのみ検討をおこなった。in vivo脊髄後角においてのホルマリン刺激後のNO測定実験においては、NOの上昇は2相性に観察され、それぞれNO合成阻害剤である7-nitroindazoleによって抑制された。in vivo脊髄スライスを用いた実験においても同様の結果が得られた。次にNMDAレセプターの拮抗薬であるMK801をあらかじめ投与しておいた場合、in vivoおよびin vitroのいずれの実験においても2相目のNOの上昇を阻害したが1相目の上昇は阻害しなかった。これらのことから、1相目のNOの由来が後根神経節細胞由来のものであり、2相目のNOの上昇が脊髄後角細胞に由来するものであることが考えられた。今後の課題として残されたグルタミン酸との関係については電極以外の方法(マイクロダイアリシス等)を含めてさらに検討を加える予定である。
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