研究概要 |
脳神経外科領域の手術では緊急症例が多く、貯血式は無効で希釈式が唯一の自己血輸血法である。通常の脳神経外科領域の手術では脳圧のコントロールが重要で通常の麻酔では過換気状態によって脳圧低下を期待して麻酔管理を行う。一方、血液希釈状態では生体の代償作用の脳血流増加があるため脳圧上昇を来す可能性がある。今回、血液希釈の有無により、過換気の脳圧、脳血流に及ぼす影響を検討し、希釈式自己血輸血の脳神経外科領域での安全性を検討した。対象は雑種成犬を用い、血液希釈を行っていない群(通常群)と20ml/kg採血し、同量の6%ヒドロキシデンプン(MW 70,000)を輸液して作成した血液希釈群に分けた。麻酔は60%亜酸化窒素イソフルラン麻酔でETC02が40mmHgとなるように換気し、平均動脈圧が100mmHgとなるようにイソフルラン濃度を調節した。呼吸循環諸量測定のため各種カテーテルを挿入した。脳諸量測定のため、内頸動脈に電磁血流計を装着した。その後開頭して脳圧測定用カテーテル、水素ガスクリアランス法により大脳皮質・髄質の組織血流量を測定した。通常群はETC02 40mmHgで各種諸量を測定した後、ETC02 20mmHgの過換気とし30分後に各種諸量を測定した。血液希釈群は血液希釈前後でETC02 40mmHgとし各種諸量を測定した後、ETC02 20mmHgの過換気とし30分後に各種諸量を測定した。その結果、対照と比べ通常群では過換気で脳圧は低下したが血液希釈群では低下を示さなかった。内頚動脈血流量は、血液希釈により血流量が増加した。脳皮質、髄質の組織血流量は、正常群では過換気によって血流量は低下したが、血液希釈群では血液希釈によって組織血流が増えたため過換気によっても対照より低値を示さなかった。つまり、過換気は脳血流量を低下させるが血液希釈で対照より血流量が増加しているため血液希釈状態では脳圧を低下させるには至らなかったものと思われる。 結論:脳外科手術に希釈式自己血輸血を用いることは、同種血輸血回避には有効であるかもしれないが過換気の効果を両群で比較してみると、希釈式自己血輸血を脳圧上昇患者に行うことは脳圧、脳血流低下に対しては不利であった。
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