緊急症例の多い脳神経外科領域では希釈式自己血輸血が広く用いられている。しかし、血液希釈状態では代償作用の一つとして脳血流が増加し脳圧亢進の可能性が高くなる恐れがある。今回の研究では血液希釈状態で、過換気により脳圧が低下するか、日常使用しているイソフルラン、セボフルラン麻酔による低血圧麻酔が脳に及ぼす影響を検討すること、さらに低血圧麻酔薬としてのニトログリセリン、プロスタグランディンE_1の比較検討を行った。 1.雑種成犬を血液希釈し、ETCO2を40mmHgから20mmHgに低下させたところ、脳圧や脳血流量は血液希釈を行っていない群に比べ増加した。このことより血液希釈状態は脳神経外科領域の手術では注意しなければならない。 2.雑種成犬を血液希釈し、平均動脈圧が70mmHgとなるようにイソフルラン濃度を下げ、低血圧状態を作製した。この結果、イソフルランは脳圧、脳血流量、脳組織酸素分圧の点で、低血圧麻酔薬として良好な結果を示した。イソフルラン深麻酔は脳外科手術では有効であった。 3.雑種成犬を血液希釈し、平均動脈圧が70mmHgとなるようにセボフルラン濃度を上げ、低血圧状態を作製した。この結果、セボフルランは脳圧の点では満足のゆく結果を示したが、脳皮質血流量と脳組織酸素分圧では、非血液希釈状態に比べ注意が必要であった。セボフルラン深麻酔は脳外科手術では注意を要する。 4.雑種成犬を血液希釈し、平均動脈圧が70mmHgとなるように低血圧麻酔薬としてのニトログリセリン、プロスタグランディンE_1を比較した。この結果、脳圧、脳血流では両者間に差は認められなかったが、脳組織酸素分圧でプロスタグランディンE_1が有利であった。脳外科手術ではニトログリセリン低血圧麻酔は注意を要する。
|