研究概要 |
重症熱傷では局所で誘導された炎症性サイトカインのInterleukin-1(IL-1),Tumor Necrosis Facter-α(TNF-α)が末梢組織の代謝を亢進させ,酸素消費量が増加する結果,頻脈,頻呼吸,心拍出量の増加を引き起こし,IL-6,IL-8の高値例は多臓器不全になるとされている。今回,重症熱傷初期に低体温療法を試み,熱傷の侵襲による反応を抑制するか否かを血中のサイトカイン(IL-1β, TNF-α,IL-6,IL-8,IL-10)と免疫(IgG)値の推移により検討した。【方法】Wistar系ラットにペントバルビタール腹腔内麻酔下,気管切開,頸静脈ヘカニュレーションした。その後,フェンタニール30μ g/kgとパンクロニウムの静脈内投与下,人工呼吸管理とし,フェンタニール10μg/kg/hrを持続静脈内投与下膀胱瘻を造設した。剃毛した背部を98℃の熱湯に10秒間浸漬しIII度30%の熱傷を作成した。実験群を常温群(n=6)と低体温群(n=6,30℃)に分け,熱傷作成6時間後に血中サイトカイン,IgGを測定した。乳酸加リンゲル液は,尿量が0.5〜1.0ml/kg/hrの範囲内を保つように投与した。【結果】IL-1β,IL-6,IL-8は,常温群に比較し低体温群で有意に低かった。TNF-αは,両群で有意の差は無かったが,低体温群で低い傾向がみられた。IL-10,IgGは両群で差はなかった。【考察と結論】今回,炎症性サイトカインが常温群に比べ低体温群で低かった事は,通常,重症熱傷初期に血中に放出されるサイトカインの増加が低体温状態により抑制された事を示し,重症熱傷初期の低体温療法による侵襲反応の改善は炎症性サイトカインの抑制によると考えられた。加えて,抗炎症性サイトカイン,IgGが両群で同様な値であった事は続発する多臓器不全の発症をも予防すると考えられた。
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