研究概要 |
熱傷患者に対する治療は近年の研究により著しく進歩してきている。しかしながら広範囲熱傷や気道熱傷を併合した場合の治療には今尚を難渋し、その治療成績も決して良好とは言えない。 我々は以前、重症熱傷患者に対して低体温麻酔法を導入する事が、体液補充療法として投与される総輸液量の著明な減少をもたらし、且つ浮腫の軽減を来すことを1993年に報告した。(明石学、田中厚司、印牧省吾、井上保介、野口宏:広範囲熱傷患者に対する低体温麻酔療法.熱傷1993;19:56-63.)引き続き、その作用機転等を解明すべく、過去動物実験として熱傷羊を用いて、50%III度熱傷モデルを作製し、麻酔薬投与下、32-33℃の低体温で24時間管理が、組織酸素代謝、浮腫軽減効果に良好であることを立証した。(1999年報告) 今回引き続き平成9-10年度の科学研究費により、実験動物としてラットを使用し、広範囲重症熱傷モデルを作製した。これにより、熱傷侵襲が生体内反応情報伝達である各種サイトカイン,および免疫系に如何なる影響を与えるか、更にその影響が低体温麻酔療法により、どの様に変化するかを明らかにすることを目的として研究を行った。その結果ラットにおいても低体温麻酔療法が熱傷受傷後の死亡率を改善させること、炎症性サイトカインレベルは低体温麻酔療法により低下すること、免疫系に対下しても悪影響を認めることはないことが明らかとなった。 以上より、低体温麻酔療法は炎症性サイトカインの産生を抑制し、熱傷に対する侵襲反応を軽減すると結論できる。
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