研究概要 |
腎機能障害を持つ患者が手術を受ける際は、麻酔や術後の疼痛管理に使用する薬剤は代謝・排泄経路を考慮し、できるだけ腎機能に影響を与えない薬物の使用が望ましい。しかし、現在まで腎機能に影響を与えない麻酔薬については結論を得ていない。最近の病理学的研究や免疫学的研究により、メサンギウム細胞の障害と腎機能の関係が注目されている。さらにメサンギウム細胞は、収縮能やサイトカインをはじめとする生理活性物質の産生などの機能をもち、腎機能に大きな影響を及ぼすため、これらの機能に麻酔薬がどのように影響するかを検討することは重要な意義があると思われる。私達は静脈麻酔薬の尿中代謝産物の燐酸化酵素に対する作用について研究を続けてきた。その中でも、静脈麻酔薬ケタミンはラット腎メサンギウム細胞の増殖を細胞内Cyclic AMPを上昇させ細胞増殖を抑制していることを明らかにしてきた(Jimi et al.,Anesth Analg Vol.84:190-195,1997)。これらの所見は神経細胞以外においても麻酔薬が作用していることを示す興味深いものと考えられる。また、これらは燐酸化酵素protein kinase Aを活性化して細胞増殖を抑制していることが示され、これらは麻酔薬が細胞内燐酸化酵素に影響を与えていることや細胞内燐酸化酵素が細胞増殖に影響を予見させる結果である(Jimi et al.,Anesth Analg Vol.84:190-195,1997)。また我々はこれらの結果を裏ずける結果として、燐酸化酵素が増殖に与える影響をCNPやアドレノメデュリンなどの循環作動蛋白の増殖抑制作用においても関与しているという結果も得ている(Segawa et al.,Nephron,Vol.74:577-579,1996;Segawa et al. Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol Vol.357:70-76,1998)。さらにこれらを詳細に検討するため、アフリカツメガエル卵母細胞発現系をもちいて、燐酸化酵素Protein Kinase Cを介して麻酔薬が作用している結果を得ている(Minami K,J Parmacol Exp Thera Vol.281:1136-1143,1997;Minami K,Eur J Pharmacol Vol.339:237-244,1997;Minami K,Mol Pharmacol,Inpress)。今後は、麻酔薬の代謝産物と細胞内の燐酸化酵素の活性を測定することにより以上の結果を確認していきたいと考えている。
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