前立腺癌に対して去勢に抗アンドロゲン剤を加えたMaximum Androgen Blockade(MAB)で治療中に腫瘍マーカーである前立腺特異抗体(PSA)が上昇し病状が悪化してきた患者において、抗アンドロゲン剤を中止するとむしろPSAが減少し病状も好転する例があり、抗アンドロゲン除去症候群とよばれている。そこで、未治療前立腺癌の生検組織を用いて、アンドロゲンレセプター遺伝子の突然変異の有無とその後の臨床経過との関連を調べた。対象は17例の前立腺癌患者で、いずれもMABによる内分泌療法によって治療された。7例は内分泌療法有効例で、再燃をみていない。5例は内分泌療法不応となったが抗アンドロゲン除去症候群は呈さなかった。6例においては内分泌療法不応となった後に、抗アンドロゲン剤中止により抗アンドロゲン除去症候群を示した。各患者より得られた前立腺生検組織からgenomic DNAを抽出した。アンドゲンレセプター遺伝子の各エクソンに特異的なprimer setを用いてPCRを行い、Single strand conformation polymorphism(SSCP)法によって遺伝子変異の有無を検索した。その結果、その後の臨床経過で抗アンドロゲン除去症候群を発症するか否かにかかわらず、アンドロゲンレセプター遺伝子に異常が検出された例は認められなかった。治療前生検組織を用いる問題点として、充分量の組織を得るのが困難であること、正常組織が多量に混入しやすいこと、heterogeneousな癌組織のうちごく一部しか評価できないことなどが、考えられた。
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