前立腺癌に対して去勢に抗アンドロゲン剤を加えたMaximum Androgen Blockade(MAB)で治療中に腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)が上昇し病状が悪化してきた患者において、抗アンドロゲン剤を中止するとむしろPSAが減少し病状も好転する例があり、抗アンドロゲン除去症候群とよばれている。平成9年度の研究において、未治療前立腺癌の生検組織を用いてアンドロゲンレセプター遺伝子の突然変異の有無とその後の臨床経過との関連を調べた。その結果、その後の臨床経過で抗アンドロゲン除去症候群を発症するか否かにかかわらず、アンドロゲンレセプター遺伝子に異常が検出された例は認められなかった。平成10年度には、アンドロゲンレセプター遺伝子のCAG repeatおよびGGC repeat数と抗アンドロゲン除去症候群との関連を調べた。対象は17例の前立腺癌患者で、いずれもMABによる内分泌療法によって治療された。7例は内分泌療法有効例で再燃をみていない。5例は内分泌療法不応となったが抗アンドロゲン除去症候群は呈さなかった。6例においては内分泌療法不応となった後に、抗アンドロゲン剤中止により抗アンドロゲン除去症候群を示した。各患者の凍結前立腺癌組織または末梢血液よりgenomic DNAを抽出し、PCR法によって各症例のアンドロゲンレセプター遺伝子中のCAGおよびGGC repeat数を決定した。CAG repeat数は、内分泌療法有効群で20から29(平均22.3)、抗アンドロゲン除去症候群なし群で21から29(平均24.2)、抗アンドロゲン除去症候群あり群で20から26(平均22.5)であり、有意差はなかった。また、GGC repeat数においては、ほとんどの症例が17であり群間に差は認められなかった。以上より、アンドロゲンレセプター遺伝子の分子生物学的検討によって抗アンドロゲン除去症候群の発症予測を行なうことは現時点では困難であると思われた。
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