研究概要 |
前立腺肥大症の発症には前立腺腺腫による尿道の機械的圧迫だけでなくα_1-アドレナリン受容体を介する前立腺平滑筋の収縮が関わっているが,我々はphenylephrineを用いた等尺収縮実験において,ヒト前立腺と各種α_1-拮抗薬Prazosin,WB4101,5-methylurapidil,chlorethylclonidineとの親和性の違いから,前立腺の収縮にはα_<1A>-受容体サブタイプが最も強く関与していることを示した.ヒトのα_<1A>-受容体のゲノムDNAには,制限酵素PstIによる2種の制限酵素断片長多型が既に知られているが,α_1-受容体分子の中で細胞内情報伝達系活性化に関わるとされる細胞内第3ループにおける多型は未だ検出されていない.我々はこの部位の遺伝子多型を検出し,それが前立腺肥大症の発症及びα_1-拮抗薬による前立腺肥大症治療の有効性に関係するか否かを検討するため,ヒトの前立腺組織を収集した.これらの組織は前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術または被膜下前立腺摘除術及び前立腺癌を否定するために施行された前立腺針生検の際に,標本の一部を採取し,直ちに凍結保存した.組織を採取した患者は術前症状スコア及び検査所見より下部尿路閉塞症状が極めて軽度の対照群と閉塞群に大別し,閉塞群をさらにα_1-拮抗薬有効群と無効群に分類した.採取した前立腺組織標本よりtotalRNAを抽出し,RT-PCRによりα_<1A>-受容体遺伝子をコードするmRNAから対応するcDNAを増幅,精製し,これを鋳型DNAとしてサイクルシークエンス法によりα_<1A>-受容体遺伝子の細胞内第3ループの塩基配列を決定し,標本間で比較した.現在まで収集された標本が対照群5例,α_1-拮抗薬有効閉塞群8例,α_1-拮抗薬無効閉塞群14例と少なく,現在のところα_<1A>-受容体細胞内第3ループにおける変異は検出されていない.
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