研究概要 |
【目的】尿道弛緩に関わるNOの生理学的役割を、NOの消去作用を有する安定で低毒性の有機化合物imidazolineoxyl N-oxides(PTIO)を用い家兎尿道平滑筋および単離平滑筋細胞にて検討し、さらにこの薬剤の尿失禁などの蓄尿障害の治療薬としての有用性について家兎の脊髄損傷モデルを用いて検討した。 【実験方法】1) 機能実験:尿道より平滑筋条片を作製し筋浴槽内に固定し張力変化を記録した。Phenylephrineにより前収縮させた平滑筋条片に経壁電気刺激(EFS)を行い弛緩反応を観察し、さらに平滑筋条片に透析プローブを貫通させKrebs液を潅流させながらEFSを行い、回収した透析液内のNO量をUV detecterにより測定した。PTIOおよびL-NNAの弛緩反応とNOx生成量への影響を観察した。 2) 細胞実験:尿道より粘膜を除去後、細切しコラゲナーゼを含むPBSにて細胞を遊離させ、これをMEM培地に移しCO2インキュベーター内で培養した。固着細胞をトリプシンで処理し、継代培養して3-4代細胞をEFS付きの容器に移し、倒立顕微鏡にてタブレット操作型ビデオミクロメーターでEFS時の細胞長の変化を観察し、培養液中のNOx量を測定した。細胞長の変化およびNO生成量に対するPTIOおよびL-NNA前処置の影響を検討した。 3) 脊髄損傷家兎モデルでの実験:家兎を麻酔下に膀胱瘻を作製し、第8-9胸椎レベルで脊椎損傷を起こし、急性期から回復した約9-10週後に機能実験と、経尿道的に膀胱または尿道内に圧力トランスデューサーを挿入し、膀胱内圧測定、尿道内圧測定を行い生理実験を行った。 【結果】尿道平滑筋条片はEFSの周波数依存性に弛緩反応を示した。L-NNA前処置は弛緩反応をほぼ抑制したが、PTIOでの抑制率は約45%であった。またEFSによるNOx量はL-NNAおよびPTIO前処置でいずれも抑制されたが、抑制率はL-NNA前処置の方が有意に高かった。培養平滑筋実験では周波数依存性に細胞長が増加した。またL-NNAおよびPTIO前処置の培養液中のNOx量に対する効果は平滑筋条片での実験と同様であった。脊髄損傷家兎モデルより摘出した尿道平滑筋条片は対照群と比しEFSによる弛緩反応、刺激時のNOx濃度、薬剤の反応性には有意差はなかった。また脊髄損傷群では対照群に比較して、膀胱容量の減少、最大排尿圧、排尿回数は増加し、最大尿道閉鎖圧は有意に低下していた。PTIO,L-NNAの経静脈的投与では膀胱容量、排尿圧、排尿回数には影響しなかったが、尿道閉鎖圧は有意に上昇した。 【結論】尿道平滑筋の弛緩においては、radical NOのみではなくNO bioaductも関係していることが示唆された。また脊髄損傷モデルでは膀胱機能、尿道機能ともに低下している可能性が考えられ、PTIOなどのNO消去剤は尿道抵抗を増加させ、尿失禁の治療薬となりうる可能性が示唆された。
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