研究概要 |
1.腎細胞癌の発育に関する臨床的検討 過去15年間に incidentaloma として発見され、経過観察されていた腎細胞癌21例の doubling time (DT)を計測した。21例のDTは40日から6.4年で平均1.6年であった。初診時の腫瘍径を3群(<15mm=7例,16〜25mm=7例,26〜50mm=7例)に分けてDTを検討したが、各群(<15mm=2.1±1.8年,16〜25mm=0.8±0.5年,26〜50mm=2.1±1.8)でDTに有意差は認めなかった。またDTをGrade別(G1=2.6±2.5年,G2.3=1.2±1.1年)に検討したがGrade 1 で成長速度が遅い傾向が認められたが有意差は認めなかった。 2.腎細胞癌の細胞増殖動態の研究 病理組織学的に証明された腎細胞癌の原発巣(18例)と転移巣(27例)でのDTは前者で40-1893日、後者で10-1932日と多様であったが、原発巣の増殖率は転移巣と比較して有意に低かった。原発巣におけるDTは腫瘍径、組織学的異型度、Ki-67 Labeling Index (Li)、apoptosis LIのそれぞれとは直接関係しなかったが、Ki-67 LI と apoptosis LI の比をとると相関が認められた。一方、転移巣におけるDTは組織学的異型度とKi-67 LI とapoptosis LI の比に相関した。このことより腎細胞癌の原発巣と転移巣の増殖は、癌細胞の増殖とアポトーシスのバランスによって決定されていると考えられた。 3.VEGFの免疫機構への影響VEGFは腎細胞癌より産生されるが、血管内皮細胞をVEGFで処理するとFSCAcanではVCAM-1の軽度の発現とICAM-1の強い発現が認められた。VCAM-1は腎細胞癌表面に発現しているVLA-4のリガンドである。一方、ICAm-1はANK細胞に発現しているLFA-1のリガンドである。このことよりVEGFは血管内皮細胞に作用した場合、血管内皮細胞と腎癌細胞の接着を促す一方、リンパ球と血管内皮細胞の接着を促進し、腎癌細胞の増殖、転移に対して抑制的に働く可能性も考えられた。
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