前立腺癌は骨に特異的に転移するが、そのメカニズムについて解析を試みた。骨は骨器質と骨髄に別れる。原発巣である前立腺から遊離した前立腺癌細胞は血流に乗り全身に移動するが、その一部は骨へ流入する。骨転移はまず骨髄腔へ細胞が流れ込み、そこで骨髄内皮細胞へ接着する。それから内皮を突破して骨器質側へ浸潤し、増殖する。このとき前立腺癌では破骨細胞のほかに造骨細胞を刺激して、造骨性転移巣を作る。前立腺癌では一旦骨髄腔へ進入するとあとは骨器質から分泌される様々な成長因子の作用により、前立腺内に存在するよりも、より増殖するとも報告されている。したがってわれわれのターゲットは、骨髄腔への接着のきっかけをみつけることとなった。したがって、骨器質ではなく骨髄液から前立腺癌細胞の接着因子の分離を試みた。骨髄液を抽出し、まず高速逆相クロマトグラフィーにていくつかのフラクションに分離。それぞれのフラクションに対する細胞接着をMTTアッセイにて測定した。このフラクションの分子量および10残基のアミノ酸シークエンスを施行した結果、ヘモグロビンであることが判明した。MTTアッセイ、FACSにて追試し確定した。また前立腺癌細胞以外に白血病細胞、大腸癌細胞、胃がん細胞、肝癌細胞ではヘモグロビンの接着は有意に低かった。骨髄では造血幹細胞のアポトーシスが盛んであり、フリーのヘモグロビンが株消血よりお多い。したがって抹消血中を流れていた前立腺癌細胞が、骨髄腔に到達したとき、多量に存在するフリーのヘモグロビンと接着。これがきっかけのひとつとなって骨髄内皮細胞への接着、浸潤、増殖というカスケードが開始されるのではないかと考えた。
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