研究概要 |
前立腺癌細胞株に対する温熱刺激では、細胞により増殖抑制効果が異なり、これにHSP70の発現が深く関与している。HSP70は、温熱刺激により誘導され、熱に対する細胞保護として働き、これにより温熱刺激の増殖抑制効果を不十分にしていると考えられる。よってHSP70の発現を抑制することにより温熱刺激の増殖抑制効果の増強が期待される。平成10、11年度は、HSP70の発現を抑制すると報告されているケルセチンの温熱刺激の細胞増殖抑制効果の増強について検討した。3種類の前立腺癌細胞株(LNcap,JCA-1,PC-3)を用いて、ケルセチンは50μMの濃度を24時間曝露し、以下の4群で実験を行った。1)非温熱刺激群2)温熱刺激群(8時間)3)ケルセチン単独処理群4)ケルセチン前処置後温熱刺激群 LNcap,JCA-1ではケルセチン単独でも増殖抑制効果が見られ、さらに温熱刺激増強効果が見られた。LNcap,JCA-1ではケルセチン単独でもHSP70の発現を減少させ、さらに温熱刺激により増強されるHSP70の発現を抑制した。さらに、HSP70低発現のsubG1細胞の明らかな増加を認め、これがアポトーシス細胞であると思われた。LNcap,JCA-1ではケルセチン単独で明らかなアポトーシス細胞の誘導が見られた。さらに温熱刺激によって、誘導されるアポトーシスの発現を増強した。LNcapでは、早期アポトーシス細胞を、JCA-1では晩期アポトーシス細胞の増加を認めた。以上よりケルセチンは、温熱刺激によるHSP70の発現増強を抑制し、さらにHSP70低発現のsubG1細胞、すなわちアポトーシスの誘導を増強することにより、温熱刺激の増殖抑制効果を増強するものと考えられた。
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