研究概要 |
平成9年度の実験において、前立腺癌細胞株に対する温熱刺激では、細胞により増殖抑制効果が異なり、これにHSP70の発現や細胞周期が深く関与していることが示唆された。特に、HSP70は、温熱刺激により誘導され、熱に対する細胞保護としての機能が働いており、これにより温熱刺激の増殖抑制効果を不十分にしていると考えられる。したがって、HSP70の発現を抑制、減弱させることにより温熱刺激の増殖抑制効果の増強が期待される。よって、平成10年度、11年度は、HSP70の発現を減弱させると最近報告されているケルセチンの温熱刺激増強効果について検討した。3種類の前立腺癌細胞株(LNcap,JCA-1,PC-3)を用いて、ケルセチンは50μMの濃度を24時間曝露し、以下の4群で実験を行った。1)非温熱刺激群2)温熱刺激群3)ケルセチン単独処理群4)ケルセチン前処置後温熱刺激群 1)細胞増殖への影響:LNcap,JCA-1ではケルセチン単独でも増殖抑制効果が見られ、さらに温熱刺激増強効果が見られた。 2)細胞周期の変化:LNcap,JCA-1ではS期細胞の割合の減少が見られ、LNcapでは、温熱刺激増強効果が見られた。PC-3細胞では明らかな変化はなかった。 3)HSP70の発現:LNcap,JCA-1ではケルセチン単独でもHSP70の発現を減少させ、さらに温熱刺激により増強されるHSP70の発現を抑制した。PC-3細胞では若干の増強効果のみ認められた。 4)アポトーシスの発現:LNcap,JCA-1ではケルセチン単独で明らかなアポトーシスの発現が見られた。さらに温熱刺激によって誘導されるアポトーシスの発現を増強した。 以上よりケルセチンは、HSP70の発現を抑制、減弱させ、アポトーシスの発現を増強することにより、温熱刺激の増殖抑制効果を増強するものと考えられた。
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