研究概要 |
ヒト腎癌由来細胞株KU2およびCaki-1を用いてin vitroでの基礎的実験を行った。両細胞株に対する3種の抗cadherin抗体HECD-1、NCC-CAD-299、anti-K-cadherin(各々ヒトのE-,P-cadherin,cadherin-6を認識)の細胞接着阻害効果を位相差顕微鏡を用いて観察したが、明らかな影響は認めなかった。上記抗体を1次抗体とするABC法による免疫組織化学では、KU2においてわずかに細胞境界でcadherin-6の発現が見られたが、両細胞株ともE-およびP-cadherinの局在は明かでなかった。両細胞株より各々総蛋白量100μcgをloadして行ったウェスタンブロット法においても、E-およびP-cadherinの明かなprotein signalはなく、KU2のサンプルでcadherin-6のかすかな発現を認めた。ノーザンブロット法による検討では、Caki-1では弱いもののヒトcadherin-6 mRNAの発現を両細胞株で認めた。また、8例と少数ながら腎癌手術例の原発巣より採取した腫瘍組織を用いて、免疫組織化学による検討を行った。P-cadherinを発現した例はなく、2例でE-cadherinの発現を認めた。cadherin-6は4例に発現を認め、興味深いことにこれらはすべてlow grade clear cell carcinomaであった。以上より、3種のcadherinのうちcadherin-6は、発現の程度が腎癌の悪性度、浸潤、転移に関与している可能性が示唆された。今後は、担癌SCIDマウスによるin vivoでの基礎的実験と、臨床材料を用いた実験を多数例で行う予定だが、より多くのヒト腎癌由来細胞株を用いたin vitroの追加実験も必要と考える。また、他のcadherin、特にN-cadherinの発現も合わせて検討するつもりである。
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