研究概要 |
平成9年度は,活性酸素による精子のDNA損傷が男性不妊患者の病態に関与していることを明らかにした。その結果を踏まえて平成10年度は,精巣温度の上昇による造精障害における活性酸素の関与を解明するための基礎研究を行った。 生後約40日令のラットから精細胞を分離し,精細胞培養の至適温度である32.5℃で3日間培養すると,90%以上の細胞は生存しアポトーシス細胞はほとんど検出されなかった。しかし,熱ストレス(45℃,1時間)を加えてから32.5℃で24時間培養した場合の生存率は70%まで減少して,約13%のアポトーシス細胞が検出された(アポトーシス細胞の定量はアポ2.7モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーを使用)。次に活性酸素のスキャベンジャーであるSOD,カタレース,アロプリノール,DMSOを添加後,熱ストレスを加えてから32.5℃で24時間培養し,アポトーシス細胞の頻度を検討した。SODおよびDMSOに関しては影響は認められなかったが,カタレースおよびアロプリノールの添加ではアポトーシス細胞の頻度がそれぞれ2%および1%まで抑制され,精細胞のアポトーシス過程に活性酸素(おそらく過酸化水素)が関与することが示された。その後の実験で,我々は,キサンチン・オキシダーゼ活性酸素産生系により酸化的ストレスを与えると実際に精細胞にアポトーシスが誘導されるのをin vitroで観察しており,精巣での活性酸素産生の産生増加は,熱ストレスに限らず精細胞のアポトーシスを誘発するものと考えられた。また,熱ストレスが細胞内の過酸化物質の濃度を上昇させることも確認された。 以上の結果から,停留精巣や精巣静脈瘤等の精巣温度の上昇による男性不妊において,活性酸素が造成障害の重要なメディエーターとなっていることが示された。
|