研究概要 |
本年度は,母体血を用いた非侵襲的出生前診断法の確立のための基礎的検討として,産褥期女性を対象に抹消血中の胎児造血幹細胞の検出,ならびにその存在頻度・時間的推移の算定を試みた. 妊娠37週以降にて男児を晩出した女性13例を対象として,分娩当日・4日後・1ヶ月後に抹消血3-9mlを採取し,これより比重遠心法にて分離した単核細胞を,PHA-LCM,エリスロポイエチンなど各種液性因子含有のメチルセルロース半固形培地にて培養した.2-3週間の培養後,形成されたコロニーを個別に回収し各々の抽出DNAから,Y染色体上のSRY遺伝子ならびに7番染色体上のZp_3遺伝子をnested PCR法にて同時に増幅し,アガロースゲル電気泳動後,増幅バンドの有無を検討した.(胎児造血幹細胞起源のコロニーはSRYとZP_3遺伝子バンドを合わせ持つ男性型を,母体造血幹細胞起源の頃に-はZP_3遺伝子バンドのみ女性型を示す.) 分娩当日の母体末抹消からは(n=13),血液1mあたり計42.7±19.6(mean±1SD)個コロニーが形成された.2週間培養の時点で各コロニーを形態的に鑑別すると,BFU-E/CFU-E47%,CFU-GM24%,CFU-GEMM2%の比率であった.これらの中で,男性型バンドパターンを示す胎児由来のコロニーは4.8±2.4個であった.さらに,4日後(n=2)ならびに1ヶ月後(n=5)の抹消血では,各々血液1m1あたり7.5±2.9個,1.1±1.1個の胎児由来コロニーが検出された. 以上もごとく,造血幹細胞培養とPCR法を組み合わせた新しい胎児細胞検出システムを確立し,これを用いて,産褥期女性では胎児造血幹細胞が少なくとも1か月間にわたり有意の頻度で血中を循環していることを証明した.本解析法をさらに広い範囲の対象に応用すれば,母体血中の胎児造血幹細胞の時間的推移を正確に把握することが可能である.さらに,妊娠初期から胎児コロニーが定常的に得られるのならば,胎児出生前診断の分野に多大の進歩をもたらすと考えられる.
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