研究概要 |
本年度は,母体血を用いた非侵襲的出生前診断法の確立のための基礎的検討として,妊娠女性を対象に末梢血中の胎児造血幹細胞の検出,ならびにその存在頻度・時間的推移の算定を試みた. 妊娠14週から35週の男児妊娠女性11例を対象として,計17回にわたり末梢血3mlを採取し,これらより分離した単核細胞を,各種サイトカイン含有のメチルセルロース半固形培地にて培養した.2〜3週間の培養後,形成されたコロニーを個別に回収し各々の抽出DNAから,Y染色体上のSRY遺伝子ならびに7番染色体上のZP3遺伝子をnested PCR法にて同時に増幅し,アガロースゲル電気泳動後,増幅バンドの有無を検討した.統計解析には回帰分析を用いた. 各血液検体からは,1mlあたり合計114.5±50.3(mean±1SD)個のコロニーが形成された.これらの中で,SRYとZP3遺伝子バンドを合わせ持つ胎児由来コロニーの頻度は3.7±2.3%で,末梢血1mlあたりの個数に換算すると4.1±3.1(range 0〜10.0)個であった.妊娠週数と末梢血1mlあたりの胎児コロニー数との間には,有意の正の相関が認められた(R=0.58,P=0.015). 以上のごとく,造血幹細胞培養とPCR法を組み合わせた新しい胎児細胞検出システムによって,胎児造血系前駆細胞が有意の頻度で母体血中を循環していることが証明された.今回の解析システムをさらに普遍化ならびに簡便化することにより,非侵襲的な染色体異常のマススクリーニング法を確立することができると考えられた.
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