表層上皮系卵巣癌の動物突験モデル作成の第一段階として、卵巣癌の同所移植モデルの作成を試みた。卵巣表層上皮由来である卵巣癌細胞YKT cell lineを人工細胞外基質であるMatrigel内に混和、その懸濁物をマウス正常卵巣内に注入した。この結果、実験開始5週後には、卵巣腫瘍を形成し癌性腹膜炎を生じた。さらには実質臓器である肝臓への転移を認めた。 次に、卵巣にN-methyl-N′-nitro-nitrosoguanidine(MNNG)を塗布することによる発癌モデルの作成を試みた。具体的には、正常の初代培養マウス間質細胞を15%gelatineに懸濁したものを卵巣表面に重積させ、腹腔内への拡散を防止するために顕微鏡下で高分子膜で被覆した。前実験と同様に突験開始5週後に開腹してマウス卵巣の表層上皮の形態学的変化を観察した。しかし、この条件下では卵巣表層上皮の形態学的変化を観察することができなかった。 そこで、MNNGの代わりに卵巣癌細胞YKT cell lineをMatrigel内に懸濁し、卵巣表面に重積させ高分子膜で被覆し、初期卵巣癌モデルの作成を試みた。実験開始5週後には、卵巣腫瘍を形成し癌性腹腹炎を認めた。 今年度の研究では卵巣癌の発生に関しては知見は得られなかったが、発育過程でMatrigelの構成成分であるlaminin、typeIVcollagenなどの間質構成成分やEGF、bFGFなどの成長因子が重要な役割を担っていることが示唆された。今後は、表層上皮性卵巣癌のみならずgranulosa cell tumorについても同様のことを検討する予定である。
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