ヒト体外受精・胚移植法における着床率を改善する方法を見つけるために、in vitroにおける細胞膜に生じるfragmentationなどの形質膜の変性の原因を脂質代謝の変化による影響という仮定を立て、これを証明するための基礎的検討として、8細胞期までのマウス胚細胞体積と表面積の変化を測定し、さらに胚へ脂質を補給する目的で、肝臓から末梢組織への脂質輸送の担い手であるlow density lipoprotein(LDL)を培養液に添加し、胚発生に及ぼす影響を検討したところ、発育率の改善は認めなかった。しかしblastocyst時期に採卵した胚のhatching後のoutgrowthは濃度依存性に有意に増加した。したがって初期胚の細胞表面積は増加していたが、細胞膜構成成分である脂質の添加による発育促進効果はblastocyst時期以後にはじめてみられると思われる。この原因を調べたところ、blastocyst時期までにはLDL recepterの発現がほとんどみられないことがわかった。通常LDLの取り込みはreceptorを介して行われるが、LDL receptor ノックアウトマウスでは生殖能は保たれており、胚発育のためにLDL receptorが必須ではないことがわかっている。しかしLDLに含まれるアポB蛋白のノックアウトマウスでは生殖能が失われていることからも、胚発育においてLDLは重要な役割を持つものである。さらに検討を加えるためにまずマウスにおける子宮膜間質細胞in vitro脱落膜化モデルの作成に成功し、これを用いて初期胚との共培養を行い、着床過程における胚と子宮内膜間質細胞との相互作用を研究している。
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