1. G蛋白内向き整流性カリウムチャネル(GIRK1/Kir3.1)の分布 G蛋白内向き整流性K^+(K_G)チャネルは、下垂体前葉においてドパミン、ソマトスタチンによる細胞の興奮性、ホルモン分泌の抑制機構に関与していることが知られている。しかし下垂体K_Gチャネルの分子構成、局在については明らかではない。我々は、K_Gチャネルの主要サブユニットであるGIRK1/Kir3.1の特異的抗体を用いてその局在を検討した。 (1) 免疫組織学的手法(二重染色法)によって、各種ホルモン分泌細胞におけるGIRK1免疫活性を検討したところTSH産生細胞にのみその局在を認めた。 (2) 免疫電顕によって、GIRK1の細胞内局在を検討したところ、免疫活性のほとんどが分泌小胞膜上に認められた。 (3) TRH投与下ではGIRK1免疫活性が分泌小胞の開口分泌によって細胞膜上に移行することが観察された。 (4) 以上より下垂体前葉においてGIRK1チャネルはTSH産生細胞の分泌小胞膜上に発現しており、TRH刺激による開口分泌によって、細胞膜上に移行することが示唆された。 2. TSH産生細胞の分泌機構におけるGIRK1チャネルの役割 上記の免疫組織学的データをチャネル機能の面から裏付けるためTSH細胞(単一細胞RT-PCR法を用いて後方視的に確認)の膜電流をパッチクランプ法および膜容量・膜電流同時測定法により計測した。 (1) 下垂体初代培養系において、ドパミン存在下でTRH投与によりカリウム電流が増幅される細胞を認めた。 (2) これらの細胞よりバッチピペットを通して細胞質を吸引し、RT-PCR法にてGIRK1およびTSHmRNAの存在を確認した。 (3) 後方視的にGIRK1およびTSHmRNAの存在を確認した細胞でドパミン存在下でTRH投与により膜容量の増大にともなって膜電流が増幅された。 3. 以上より分泌刺激物質(TRH)はホルモン(TSH)分泌を促すだけでなく、K_Gチャネルを細胞膜上に移行させて逆に抑制機構を発現させるという新規のネガテイブフィードバック機構の存在が示唆された。
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