研究概要 |
卵巣癌の化学療法において、現在シスプラチンを中心とした多剤化学療法が主流となっている。我々はシスプラチン、アドリアマイシン、シクロホスファミドによる化学療法を施行した原発性卵巣癌III期、特に漿液性腺癌症例においてシスプラチン耐性関連蛋白であるYB-1の癌細胞核内発現が予後に関連していることを見いだした(Cancer 85;2450-4,1999)。40例の漿液性腺癌と32例の明細胞腺癌においてYB-1発現を比較検討したところ漿液性腺癌ではその30%に、明細胞腺癌では72%に陽性を認め、明細胞腺癌は漿液性腺癌に比し有意にYB-1発現頻度が高かった。これは明細胞腺癌が予後不良である因子の一つとしてシスプラチン耐性能を獲得していることが示唆された(第50回日本産科婦人科学会学術講演会.平成10年4月21日)。また、我々は再発卵巣癌においてもYB-1発現の検討を行った。初回手術およびシスプラチンを含む術後化学療法を行い、その後に再発し手術が行われた35組の原発巣と再発巣についてYB-1発現の有無を調べた。原発巣でのYB-1発現陽性例は16例で、そのうち、14例が再発巣において陽性であった。また、原発巣でYB-1院生例19例の内、再発巣では10例が陽性に変化していた。核内YB-1発現は再発巣で有意に増加していた。再発巣で核内YB-1発現が有意に高かったことは臨床卵巣癌においてシスプラチン耐性とYB-1発現との間に関連がある可能性が示唆された(第51回日本産科婦人科学会学術講演会.平成11年4月13日)。治療中の体腔液浮遊癌細胞において経時的なYB-1の発現の変化については現在研究中である。 今回の我々の研究成果よりMDR1遺伝子の近位プロモーター領域に存在する逆向CCAAT配列に結合する転写因子YB-1は卵巣癌においてシスプラチン耐性の獲得と強い関連性を示し、卵巣癌の抗癌剤による細胞生物学的悪性度の変化に影響を与える因子の一つであり、治療効果判定の有用なマーカーと成り得ることが示唆された。現在我々は、増殖能のマーカーであるKi-67や転移能のマーカーの一つであるCD4v66、また接着因子について抗癌剤による発現の変化を引き続き検討している。
|