卵巣性ステロイドことにエストロゲン(E)は、動脈硬化を抑制する物質として知られ、その作用機序は脂質代謝に対する影響及び血管機能に対する作用がある。今回の研究では、Eに加えて卵巣性ステロイドであるプロゲスチン(P)が動脈壁と子宮内膜に対してどの様な変化をもたらすかを検討した。生後約6ヶ月の日本白兎をシャム手術を行ったコントロール(C)群、卵巣摘除術(OVX)群、卵巣摘除+E投与を行ったOVX+E(吉草酸エストラジオール5mg/body/2weeks)群、卵巣摘除+E+P投与を行ったOVX+E+1.0P(カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン125mg/body/2weeks)群、OVX+E+0.3P群及びOVX+E+0.1P群とに分けて、それぞれ2週間毎の性ステロイド投与を行いながら、1.5%コレステロール食で飼育した。6ヶ月後に安楽死させ鏡検用血管標本(H.E染色他)の作製及び収縮実験を行った。標本は、長軸方向に垂直にスライスし放射状に設定した8方向の内中膜の厚さを測定し平均を求めた。血管の収縮実験は脳底動脈及び胸部大動脈でリング標本を作製し、等尺性収縮記録法を用いた。胸部大動脈の中膜の厚さはOVX群では非コレステロール食の約2.5倍の844±78μmに達し、OVX群>OVX+E+1.0P群>OVX+E+0.3P群>OVX+E+0.0.1P群>OVX+E群>C群の順であった。脳底動脈では、明らかな内中膜の肥厚は見られず、有意差は認めなかった。等尺性収縮記録法では、胸部大動脈では内皮依存性の弛緩反応の見られた標本数は、上記の順に少なかった。脳底動脈では内皮依存性の弛緩反応は全ての標本で認めたが、OVX群でC群あるいはOVX+E群より有意に減弱した。子宮内膜に関してはPによる有意差が認められず、濃度設定や検体数などが検討課題である。結論として、Eは動脈硬化のある血管の弛緩反応をも増強し、PはEが有する内中膜の肥厚抑制を減弱する。
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