子宮内胎児発育遅延(IUGR)の遺伝的背景を追求するため、本年度中に以下の3点について検討した. 1.検体の集積 相手方の同意が得られた症例について、IUGRの胎盤、臍帯血、母体血および可能な限り父親の血液を集積した.本年度は、さらに16症例を集積した.現在、計36例のIUGRについて胎盤DNAとRNAおよび血液DNAを現有している.今後、さらに検体の集積を行う. 2.染色体検索(UPDの有無を同定する.) ヒト発生過程で数的染色体異常に対して働く修復機序の結果、胎盤ではCPM(confined placental mosaicism)、胎児ではUPD(uniparental disomy)を認めることがある.これらは、IUGRの原因と考えられる.そこで、集積した胎盤組織の一部を染色体分析してCPMの検索を行った.その結果、36例中3例にモザイクを認めた.今後は、胎児末梢血および皮膚線維芽細胞の染色体分析を行い、CPMを同定する.さらに、CPMである症例について制限酵素断片長多型やCArepeatを用いた遺伝型の解析を行いUPDの有無を検索する. 3.IGFII遺伝子の発現異常の同定 マウスにおいてIgfIIを夕一ゲッティングするとIUGRとなる.また、ヒトにおけるIGFIIの発現過剰は巨大児(Beckwith-Wiedemann syndrome)になる.そこで、ヒトにおけるIGFIIの発現低下が、IUGRの一原因ではないかと考えた.上記で集積した胎盤RNAについてRT-PCR法で発現の程度を検索した.現在までのところ、発現低下を認めた症例はない.今後さらに集積した症例について解析を加えたい.
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