妊娠中毒症患者においては子宮ラセン動脈の病理学的変化や攣縮にともなう子宮胎盤循環不全が発症することが知られ、子宮内胎児発育遅延の発症に深く関与している。最近、これらの変化が血管内皮障害に起因している可能性が指摘されている。また、妊娠中毒症を発症するリスクの高い患者に対する経口的カルシウム(Ca)補充療法も行われ、アンジオテンシン(AT)に対する昇圧不応性に関係した発症予防効果が報告されている。しかし、現在もなお、妊娠中毒症における血管内皮障害の発症機序および経口的カルシウム(Ca)補充療法の妊娠中毒症発症予防効果に関する詳細なメカニズムは明らかにされていない。 今回、培養血管内皮細胞に正常妊婦血清と妊娠中毒症妊婦血清をそれぞれ添加する実験を行って、妊娠中毒症血清中に培養血管内皮細胞内カルシウムイオン濃度を著明に上昇させる物質が存在することを明らかにした。したがって、この血清中の因子が妊娠中毒症における血管内皮障害に深く関係しているものと考えられる。さらに、この血管内皮細胞内カルシウムイオン濃度の上昇はオシレーションを伴うことを明らかにし、妊娠中毒症患者血清中には血管内皮からのNO等の分泌に関与する因子も含まれている可能性を明らかにした。また、妊娠羊の子宮塞栓実験によって子宮血管抵抗の増大にともなう子宮動脈血流速度波形の変化を検討し、妊娠中毒症患者における子宮動脈pulsatility indexの増大と、diastolic notch出現の意義について検討し、これらが子宮胎盤循環不全にともなう子宮内胎児発育遅延等の予知、管理に有用であることを明らかにした。さらに、尿中orotic acid量の変化から妊娠中毒症病態におけるNO産生障害の関与の可能性を明らかにした。
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