多くの感染症おにおいて、母体の感染は胎盤に及んでも、胎児にはその感染が波及しないことが従来より知られており、胎盤のもつこの母体から胎児への感染阻止作用は『胎盤バリア機構』と呼ばれてきた。しかし、『胎盤バリア機構』の機序については不明のままである。Human T-lymphotropic virus type I(HTLV-I)感染では、母体の感染は胎盤に及んでも、胎児にはその感染が波及しない『胎盤バリア機構』が作動していると考えられる。本研究はHTLV-I感染と胎盤絨毛細胞のアポトーシスの関連について研究した。 以下の結果が得られた。 1.TdT mediated UTP nick end labeling(TUNEL)法を用いて胎盤切片のアポトーシス陽性細胞(核)の頻度を比較したところ、HTLV-Iキャリア妊婦(n=8)では非キャリア妊婦(n=8)に比べ、有意にアポトーシス陽性細胞(核)の頻度が高かった。2.MT-2細胞(HTLV-I感染リンパ球)添加in vitro実験により胎盤絨毛細胞にアポトーシスが誘導された。1、2の結果より、HTLV-Iは胎盤絨毛細胞にアポトーシスを誘導することが判明した。3.HTLV-Iキャリアであることにより、胎盤重量、児の出生体重に影響を及ぼすことが懸念されたが、HTLV-Iキャリア妊婦(n=69)と無造作に抽出した非キャリア妊婦(n=300)との間には統計学的に有意の差はみられなかった。4.胎盤絨毛細胞と共培養したMT-2細胞では、1x10^5個あたりアポトーシス陽性細胞は150±26個(平均±標準偏差、n=3)で、一方MT-2細胞単独培養では3±1個(n=3)であった。
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