血漿中の過酸化脂質は血管内皮細胞を傷害することから、アテローム性動脈硬化症などの高血圧症の原因の一つと考えられている。妊娠中毒症に見られる高血圧についても、その発症に血漿過酸化脂質の関与が疑われている。我々は、この血漿過酸化脂質を代謝、還元し、無毒化する全く新しい酵素が血漿中に存在することを見出した。そこで、本研究では、この新しい過酸化リン脂質還元酵素について、1.ヒト血漿より精製し、酵素学的な性質を解明するとともにその本体を明らかにすること、2.妊娠中毒症患者の酵素量を測定し、各種の臨床的パラメーターと比較することにより、血漿過酸化リン脂質還元酵素の臨床的役割を解明することを目的とした。今年度の研究では、まずこの酵素の精製を行なった。ヒト血漿より硫安分画(30-50%)、HiLoad Q Sepharose、phenyl Sepharose、HiTrap Heparineカラムにより精製を進めたところ、過酸化リン脂質還元活性は、3つのピークに分離した。その内の一つについて更にゲルろ過にて精製したところSDS-PAGEで分子量28KDaの単一バンドを示すまでに精製できた。最終標品は血漿での活性より約120倍にまで比活性が上昇していた。このものについて、N末端のアミノ酸配列を決定したところ、Apolipoprotein A1であることが判明した。また、妊娠中毒症患者における血漿解析については正常妊娠50例、High-risk妊娠40例、妊娠中毒症患者20例の採血を終え、現在血漿過酸化コレステロール・エステル量、血漿グルタチオン・ペルキシダーゼ活性、および血漿過酸化リン脂質還元酵素活性を測定している。加えて、血漿過酸化脂質還元酵素の本体が、一部Apolipoprotein A1であることが判明したことから、患者血漿におけるApolipoprotein A1量の測定を準備中である。
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