血漿過酸化脂質は血管内皮細胞を傷害することから、アテローム性動脈硬化症などの原因の一つと考えられている。妊娠中毒症に見られる高血圧、浮腫、蛋白尿などは血管内皮細胞の傷害が関与していると思われる。我々はヒト血漿には血漿グルタチオン・ペルオキシダーゼ(PGPx)以外にも過酸化脂質を代謝する新しい酵素が存在することを証明してきた。本研究では、(1)この酵素を血漿より精製し、その本体および酸素学的な性質を解明すること、(2)妊娠中毒症におけるこの酵素の臨床的役割を解明することを目的として研究を行って来た。 3年間にわたる研究により、ヒト血漿過酸化脂質還元酵素は主にApolipoprotein B100、およびApolipoprotein A1にあることが判明した。その他にもこの活性を担うタンパク質の存在が認められたが、個々のタンパク質の寄与率は低かった。また、ApoA1の過酸化脂質還元の分子機構の解明をめざし、この活性を担うメチオニンを含むペプチド3種類を化学合成し、その活性を測定したところすべてのペプチドに活性があること、および過酸化脂質の還元に伴ったメチオニンスルフォキサイドの形成が確認され、過酸化脂質還元の分子機構が明らかになった。また、本研究を通して、安定した過酸化脂質還元活性の測定法の開発を試みたが、昨年度までに開発することに成功した。この方法を用いて妊娠中毒症の患者血漿を中心に測定したところ、正常妊娠者、妊娠中毒患者で全く差が認められなかったが、妊娠中毒症を発症しなかったHigh-risk群では明らかな活性上昇が認められた。血漿過酸化脂質還元の主役であるPGPxには変化が認められないことから、妊娠中毒症における血漿過酸化脂質量の上昇におけるこの活性の重要性を証明できた。
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