腹膜播種は腹膜内を転移経路とする癌の転移形成であり、腹腔内臓器から発生した癌ではリンパ節転移に次いで多い。特に我が国における女性性器癌中、近年増加傾向にある卵巣癌の非治癒因子・再発形成の中で腹膜播種の占める割合は最も多く、死因の一位を占めている。卵巣に発生した癌細胞は腹腔内に遊離・移動し、腹膜面に接着し、そこで増殖することにより腹膜播種が形成されると考えられている。即ち、これらの転移の全てのステップをクリアした細胞のみが腹膜播種を形成する。しかしながら、卵巣癌の腹膜播種形成の分子機構は未だ解明されていない。我々は予備実験において既に卵巣癌の組織型の差により細胞表面の糖鎖の違いが見られ、殊にスルファチドが粘液性卵巣癌細胞に特異的に発現される事実を得ており、以上の成果より卵巣癌の腹膜播種形成と細胞表面糖鎖の関係が転移に重要な意味を持つことが予想された。そこで我々は当研究室で樹立でた卵巣明細胞腺癌株(RMG-I)をヌードマウスの腹膜内に繰り返し移植する方法により、腹膜高転移性モデルの作成を試みた結果、以下の様な成果が得られた。 1).卵巣癌培養細胞株を動物の腹腔内に繰り返し移植する方法により、高転移癌細胞を選択的に得る事に成功した。 2).不死化腹膜細胞株に対するin vivoでの接着阻害実験の結果、高転移能の獲得がLewis^xという血液型物質であることが判明した。 3).また、高転移癌細胞におけるlewis^xの高発現はステアリン酸を含む糖脂質が増加した結果であることが判明した。 4).以上の結果より、卵巣癌細胞のおける高播種能の獲得は腹膜内への繰り返し移植の結果により増殖されたLewis^xに関連する事実が判明した。
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