卵巣癌の浸潤・転移機構を解析するため、腹膜播種性転移のモデルを新たに確立し、それを用いて卵巣癌細胞と腹膜中皮細胞との接着に関与する複合糖質を明らかにすることを目指し、以下の成果を得た。 1. 癌細胞の生化学的解析:各種卵巣癌培養細胞株を分析した結果、組織型の差により特徴ある糖脂質が含まれること、さらに腫瘍の癌化に伴い糖脂質が変化する事実が認められた。特に粘液性腫瘍においては、組織中に含まれる組織中に含まれる酸性糖脂質の90%以上がスルファチドであり、一方他の組織型におけるスルファチドはN-cerebronoyl photosphingosineを含むI^3SO_3-Gal Cerと判明した。 2. 腹膜播種に関連して発現するタンパクの解析:各種卵巣癌細胞を中皮細胞に対する相互作用に基ずき、浸潤群と接着群の2群に分類した、各々の群に属する細胞株の単層中皮に対する進展に対し、抗インテグリン抗体による抑制効果が浸潤群で明らかであった。一方、接着群では抗Lewis^x抗体による抑制効果が見られた。 3. 卵巣癌腹膜高転移モデルを用いた高転移能の獲得に対する生化学的分析:前述の接着群に属する卵巣明細胞腺癌株(RMG-I)をヌードマウス腹腔内に繰り返し、移植することにより高転移モデルの作成に成功した。さらにRMG-Iの表面糖鎖のつき抗Lewis^xモノクローナル抗体を用いたFlow Cytometry及びTLC Immunostainingによる分析を行い、高転移細胞においてはLewis^xが増加していることが判明した。さらに不死化腹膜細胞に対するin vitroでのLewis^xを用いた接着阻害実験においてもRMG-I細胞は明らかに抑制された。以上の結果より、卵巣癌細胞における腹腔内への高転移機能の獲得は、腹腔内への繰り返し移植の結果により増量したLewis^xに関連することが示唆された。
|