研究概要 |
受精現象には多くの過程が存在するが、その中で精子の先体部分は、精子の卵透明帯への接着、結合に関与するだけでなく、先体反応を起こして先体酵素を放出し、精子の透明帯貫通に不可欠である。この先体反応の惹起にはカルシウムイオンが関与していることが知られている。また、先体反応とは別に、精子運動能にカルシウムイオンが関与していることも報告されている。我々は従来より、受精現象に関与するヒト精子膜上の抗原物質h-Sp-1に関して研究してきた。現在までに、1)受精現象におけるh-Sp-1遺伝子の単離に成功した。この遺伝子配列を基にして類推したアミノ酸配列を解析すると、この蚕白は4つのtransmembrane domainを有する膜上に存在する分子であることが示唆された。遺伝子バンクのhomology検索の結果、この遺伝子は全体としてはヒトsynaptophysinと43%のhomologyを示す事が明らかになった。2)同分子が精子先膜上に存在することを明らかにした。3)透明帯除去したハムスター卵へのヒト精子の受精実験にて同分子への抗血清が阻害作用のあることを明らかにした。4)ノーザンブロット解析に同遺伝子が、精巣で他の臓器と異なった発現形式をとっていることを明らかにした。5)同遺伝子をbacculovirus vector組込み、同分子をInsect cellにて大量に発現させることに成功した。その分子を用いて、モノクローナル抗体を樹立に成功した。6)同遺伝子のゲノム遺伝子の一部のクローニングに成功しエクソンの一部を同定した。 上記のようにh-Sp-1分子の、発現、構造、精子膜での局在、受精現象への関与を明らかにしてきた。 現在さらに、モノクローナル抗体を用いて、精子の先体反応前後でのh-Sp-1分子の動態、h-Sp-1分子の精子膜上のカルシウムチャンネルに関与する分子(synapsin,calmordin,SNAP25など)とのかかわり、受精系への影響について検討を進めている。
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